くらしお古今東西

岩手県と塩

江戸時代から明治末までは、三陸沿岸では主に海水を直接釜で煮つめる方法による塩づくりが行われていましたが、大船渡湾には入浜式塩田もありました。

野田村の海岸でつくられた塩を牛の背に乗せて北上山地を越えて盛岡近郊にまで運んだ「野田塩ベコの道」が塩の道として有名です(ベコは牛のこと)。

塩にまつわる人物

宮澤賢治の母の家は塩の卸業をしていた

岩手県花巻市。城下町の名残を留める鍛治町に「宮澤商店」という商店がある。

ここは宮澤賢治(1896〜1933)の母イチ(1877〜1963)の実家だ。敷地内には「賢治産湯の井戸」があり、夏季の期間限定で一般公開もされている。500坪にも及ぶという商店の敷地には、事務所を兼ねた母屋のほかに土蔵二軒、煉瓦の蔵一軒などが建ち並ぶ。

宮澤商店は、今も花巻市を代表する企業として石油・ガソリンの取扱や花巻空港での売店営業などを行っているが、かつては専売局指定の塩とたばこの卸業者(元売捌人)もしていた。商店の歴史についてお話をうかがうべく、2018年3月、当時代表取締役社長を務めておられた故・宮澤啓祐氏を訪ねた。

写真1:宮澤商店敷地内にある「賢治産湯の井戸」

 

写真2:明治時代に建てられたという煉瓦造・三層の蔵

 

商店の興りは幕末期にさかのぼるが、石油の取扱を始めたのは1891年(明治24)ごろだったという。東北本線が盛岡まで開通し、花巻を通るようになったのは1890年(明治23)のことだが、その東北本線を使って石油を運んできたという。

さらに商売を大きくしたのが、賢治の祖父にあたる善治(1854〜1939)だった。塩、たばこなど業種を広げたほか、花巻銀行、花巻温泉、岩手軽便鉄道の設立など花巻の地域経済の発展に尽力した。

『宮澤賢治年譜』(筑摩書房、1991年)によると、専売局から塩とたばこの元売捌人の指定を受けたのは、善治の長男で啓祐氏の祖父に当たる直治(1879〜1955)が社長のときであった。直治は次男の恒治(1886〜1972)と協力して経営の近代化・多角化に努め、塩・たばこ以外にも、製糖会社や保険会社の特約を受けるなどして、経営基盤を固めていった。直治社長時代に番頭頭(ばんとうがしら)を務めておられた清水氏からもお話を伺ったが、叺(かます、専売局の指定した統規格の塩袋)に入った塩が店に来ていたこと、それを小売店に回していたことをご記憶であった。

塩に関しては日の浅かった宮澤商店が、特権的な地位である元売捌人になれたのはなぜだったのだろうか。すでに商店としての実績や信頼は築かれていたが、とくに鉄道輸送のノウハウを持っていたことは、有利に働いたポイントかもしれない。明治後期の『岩手県統計書』を見ると、塩は岩手県の鉄道輸入物のなかでも主要な産品で、花巻駅は盛岡駅と県内で塩の輸入量の一二位を争う駅となっている。石油の取扱いで東北本線を開業当初から用いていた経験は大きかっただろう。

啓祐氏は、塩の仕入地として東北を代表する製塩地である渡波(わたのは、現・宮城県石巻市)があったことも記憶されていた。東北本線で遠隔地から運ばれてきた塩だけでなく、三陸の塩も扱っていたことになる。となると、善治が設立に関わった釜石と花巻を結ぶ岩手軽便鉄道も、塩の輸送に使われていたかもしれない。

東北本線と釜石からのルートが交わる地点として、近代の花巻は発展を遂げた。宮澤商店はその中心的な役割を果たした存在だったといえるだろう。

青木 然(たばこと塩の博物館学芸員)

塩の道

久慈から送られる塩の道(九戸(くのへ)街道)

九戸街道は、久慈市から二戸市までを結ぶ街道で、現在の国道395号線とほぼ同じ。久慈市内の海岸部や侍浜で作られた塩は、この九戸街道を使って運ばれた。塩や海藻(浜草)は、人や馬の背中に載せた。彼らのことを、若かろうが老人であろうが関係なく「浜の爺」と呼んだという。途中の軽米(かるまい)には市があり、米や栗などの穀物や柿と交換されたという。この軽米で取引が行われたため、「軽米塩」といわれた。この軽米塩は、青森県の南郷(八戸市)や名川(三戸郡南部町)にまで運ばれた。

落合 功(青山学院大学経済学部教授)

参考文献:『塩の民俗学』亀井千歩子

塩にまつわる習俗

与作塩

柳田国男の『遠野物語拾遺』には、昔、与作という塩商人が正月の11日に塩を売り歩くと、買った塩の中に黄金が入っていたことから、遠野の町では、これを吉例として正月11日に「与作塩」といって塩を買う習慣があったとの話が載せられています。

参考文献:『遠野物語拾遺』柳田国男

塩と暮らしを結ぶ運動推進協議会会員

全国塩元売協会会員

  • 岩手塩元売株式会社

 

日本特殊製法塩協会会員

  • 大坂建設株式会社

 

協力団体・協力会社等

  • 三陸・大船渡東京タワーさんままつり実行委員会
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