厚い地層のように地下に堆積した岩塩層から岩塩を掘り出すと、岩塩層の中に大きな空隙=部屋が残ります。ポーランドのヴィエリチカ岩塩坑でも、長年の岩塩採掘の結果、地下30mから330mに至る巨大な岩塩層の中に、全長約300kmの坑道と、大小合わせて2,000以上もの部屋が入り組んだ地下迷宮ができました。地下101mにある「聖キンガ礼拝堂」も、そのように岩塩を掘り出した後に残された部屋のひとつです。祭壇の中央に設置された聖キンガ像をはじめ、床や壁、天井からシャンデリアに至るまで、すべてが岩塩でできています。

現在はカトリックの聖人となっている聖キンガには、以下の伝説があります。ポーランド王との結婚に気乗りしなかったハンガリー王女キンガ姫は、婚約指輪をハンガリー国内の岩塩坑に投げ捨てた後、1239年にポーランドに嫁ぎます。王妃となったキンガがヴィエリチカに赴くと、捨てたはずの指輪がなぜかそこから出てきたため、その地下を掘るように命じたところ、広大な岩塩層が見つかりました。その後ポーランド王国はヴィエリチカの岩塩採掘を国家事業として繁栄しますが、その礎となる岩塩を発見したのがキンガ王妃だったという伝説です。

落盤などの危険を伴う岩塩採掘に従事する労働者たちは、守り神として聖キンガを篤く信仰するほか、最後の晩餐をはじめとした多数の岩塩彫刻に熱心なカトリック教徒としての信仰を刻みました。「聖キンガ礼拝堂」以外にも壮麗な岩塩彫刻が数多く残されたヴィエリチカ岩塩坑は、世界遺産にも最初の12件のひとつとして登録されています。

 

たばこと塩の博物館 主任学芸員 高梨浩樹

(写真提供:たばこと塩の博物館)

 

参考文献:『たばこと塩の博物館 常設展示ガイドブック』、『塩 地球からの贈り物』片平 孝、『「塩」の世界史』M.カーランスキー

 

(塩と暮らしを結ぶ運動推進協議会事務局より)塩と暮らしを結ぶ運動の賛助会員であるたばこと塩の博物館(東京都墨田区)にも「聖キンガの祭壇」が展示されています。本物のヴィエリチカ岩塩を使い、ヴィエリチカの坑夫が「聖キンガ礼拝堂」をモチーフとした彫刻を施したものです。

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