第6回 デスバレー(アメリカ合衆国)

カリフォルニア州を南北に走るシエラネバダ山脈がある。この山脈の東側に「死の谷」と呼ばれる3,000m級の岩山に囲まれた広大な谷がある。約180年前、ゴールドラッシュに沸き返るカリフォルニア目指して多くの人々が谷に入り遭難した。これが死の谷「デスバレー」の名の由来であるという。

1994年国定公園から国立公園に指定されたデスバレーは、アメリカの国立公園の中で最大の広さがあり、長野県の面積に等しい。

公園の中は乾燥地帯特有の景観が広がっている。妖しくうねりながらつづくメスキート砂丘群はハリウッド映画に度々登場する場所。朝夕の光が射すと風紋を刻んだ砂丘に濃い影ができて思わず見とれてしまう。デスバレーは、海に没していたときの海洋生物が堆積した堆積岩の地層からできており、また公園の中ほどにあるゴールデンキャニオン(黄金色の峡谷)は太古の湖に沈澱した泥の堆積でできているなど、地殻変動でつくられた景観である。

ハイカーの姿が見える美しい砂山は、メスキートフラット砂丘。この一帯は1913年、史上最高気温56.7℃を観測した。デスバレーの観光シーズンは冬から春まで、それ以外は殺人的な猛暑で危険な場所になる。一度この猛暑を体験しようと5月末のデスバレーを訪ねた。移動できるのは朝夕のみで、夜は1,669mの山頂にある展望台で車中泊した。

 

中でも一番の見どころは、バッドウォーターと呼ばれる塩の川だ。デスバレーの谷間を南北に流れる塩の川は、死海のように海より低い海抜マイナス86mの低地を流れている。ここは全米で車に乗って走れる最低地点で、海抜0m以下の大地が200㎞にわたってつづいている。

標高1,669mの展望台ダンテスビューからデスバレーを見おろす。山からいろいろな鉱物に混じって、塩が流れ出ているのがよくわかる。眼下にはバッドウォーターの塩の広がりが見え、その奥には壁のように立ちはだかるテレスコープの山並がある。

 

谷間を南北に流れる結晶した塩の川。海抜0m以下の大地が200㎞にわたってつづいている。

 

塩の川の岸辺は、「悪魔のゴルフコース」と呼ばれる広大な塩原が、谷全体を埋め尽くしている。凸凹の大地は、高温と乾燥が支配するデスバレーの過酷さが生み出したもので、現在も溶解と結晶をくりかえしている塩の姿である。湖が干上がるときには水に溶けていた塩分と流れてきた土砂が取り残される。湖はこの再生と消滅を繰り返して、塩と土砂が重なり合う地層ができた。まわりの山々から地下水とともに流れこんだ塩と泥は、数百mの厚さで谷に堆積しているという。

「悪魔のゴルフコース」と呼ばれる塩原が、雪をかぶったテレスコープ山麓までつづいている。この塩原は湖面が干上がるとき、水中に含まれていた塩分が取り残されて広大な塩の大地をつくり、発生と消滅を繰り返したため、塩の層と土砂の層が何枚も重なり合う地層ができた。時間が経つにつれ塩は塩、泥は泥に分離して凸凹の景観になった。

 

塩の大地に空いている穴に手を入れると底に塩が沈殿している。小学生が面白がって塩を取り出している。ここは小学生が地球の不思議を勉強する野外教室の場所になっている。

片平 孝(写真家)

ホームへ戻る