第5回 グレートソルトレイク(アメリカ合衆国)

グレートソルトレイクは、アメリカ合衆国ユタ州の北部にある、西半球最大の塩水湖である。湖にはベアー、ウエーバー、ジョーダン、オグデンなどいくつもの川が流れ込んでいるが水の流れ出す出口がない。乾燥地帯にあるため、地球温暖化と重なって年々塩分濃度が濃くなっている。湖水の塩分濃度は高い場所では30%近くも有り海水よりはるかに高い。

グレートソルトレイクは、中東にある死海の若い時代に相当するといわれている。今後、時間が経って今より塩分濃度が濃くなれば、食塩や炭酸マグネシウムなどが多くなり、湖底に堆積して、いずれ死海と同じようになるからだ。

塩分濃度が薄い東岸の景観。どこまでも遠浅の湖がつづく。ここは学校の遠足や市民の行楽地になっている。

 

同時に湖は急激に縮小している。アメリカ地質調査所によると、1986年に約6,000平方キロメートルだった面積は、2022年には2,600平方キロメートルを下回るようになり、36年間で60%も減ってしまったといわれている。私が訪れた2001年頃は約4,600平方キロメートルで琵琶湖の7倍の広さがあったが、平均水深は4.3mと浅いため貯水量は1,900億トン程だ。琵琶湖はおよそ275億トン。縮小の原因は農業用水の利用増などである。「このままでは5年以内に湖が消滅する可能性がある」という報告書が同時期に公表された。塩分濃度は揚水場所や雨量にもよるが14%~37%。乾燥地帯にあるため降水量は25cmと少ない。

グレートソルトレイクの南岸から西岸にかけて風景が一変する。氷のように塩が結晶した荒涼とした眺めが広がっている。「アメリカの死海」と呼ばれるくらい塩分含有量が多く濃度は約25%もあるので、泳げない人でも身体が簡単に浮いてしまう程だ。湖全体で推定60億トンの塩が溶け込んでいるといわれている。

湖の南岸に沿って古い国道80号線が走っている。西部開拓時代のカリフォルニアを目指す道の一部だ。1824年ジム・ブリッジャーという人物が、白人で初めてグレートソルトレイクに到着した。このとき彼は湖の水をなめて「塩っ辛い!太平洋についたぞ」と叫んだという。

グレートソルトレイクの南岸を東西に走る旧国道。現在、名前を変えて州間高速道路80号線となってカリフォルニア州サンフランシスコからニューヨーク郊外のニュージャージー州ティーネックまでを結ぶ長距離道路になっている。

 

湖から塩を取る仕事は、この地方の主要な産業になっている。ここで生産される塩のうち、食塩が半分以上を占める。食塩はソーダ工業の原料としても利用され、アルミホイルや新聞紙などに使われる水酸化ナトリウムや漂白剤などの原料になる塩素を生み出す。また湖にはカリウム塩も溶け込んでおり、ここからガラスの原料や薬品の製造に使われる水酸化カリウムができる。

湖の南西岸にあるCargill社の天日塩田を集めた製塩工場。この塩は、食塩の製造に使われ、ヨウ素(但し、ヨウ化カリウムのみ)を添加することが認められている。

 

グレートソルトレイクの西に、100km余りにわたってつづく塩の大平原ボンヌヴィルがある。グレートソルトレイクは、氷河が融けてできたボンヌヴィル湖の一部で、ここはボンヌヴィル湖の湖底にあたる。

塩の大平原ボンヌヴィル。ここは氷河が融けてできたボンヌヴィル湖の湖底。真っ平らな塩の大地は、車のスピードテストをする場所として有名だ。

 

片平 孝(写真家)

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