第1回 海になろうとするアッサル塩湖(ジブチ共和国)

水の惑星地球は塩の惑星でもある。今から数億年から数百万年前、地殻変動などで陸に閉じ込められた太古の海水は、長い時間をかけて、大気や水の循環する中で結晶と溶解とをくりかえしてきた。その結果、塩は海だけでなく、山にも湖にも地球のいたるところに存在している。

アフリカ大陸とアラビア半島を引き裂いて紅海をつくった地球内部のエネルギーは、東アフリカのジブチ共和国で、現在も、脈々とつづいている。その場所は東アフリカ大地溝帯の中でも、海面より100m以上低いアファール三角地帯。ここでは地球のエネルギーが陥没地の厚さ20 ㎞の薄い地殻を、年間約6cm の速さで引き裂いている。地殻が左右に引っぱられている場所は、いずれ海水が流れこみ海に没して海洋プレートを生み出す海嶺になるといわれている。

アフール三角地帯の溶岩台地。海が干上がるとこのような景観になるといわれている。

 

見渡す限り広がる褐色の溶岩台地がアデン湾に落ちるどん詰まりにアッサル湖がある。陥没した低地の割れ目から紅海の水が入りこんでできたこの湖は、今も海水の流入がつづいて、いずれ紅海のように海になる。

アッサル湖は海抜マイナス155m。面積は54 ㎢。遠浅の湖は水深平均7.4m しかないアフリカ大陸最低標高地点である。

サンゴの砂浜のような白い渚は、40mに堆積した塩でおおわれている。その湖底には、波に転がされてできたパール塩という真珠のような円い塩のかたまりができる。原住民アファール族はこの塩を土産品として、湖を訪れる観光客に売って現金収入にしていた。

風と波の音以外何も聞こえないアッサル湖の岸辺に立って、ヒスイ色の不思議な湖面を眺めていると、大気が違うのかどこか別の惑星に迷い込んだような落ち着かない気持ちになってくる。塩の渚を歩くと足に急ブレーキがかかる。靴底がボロボロになりそうな硬いとんがった塩で、勢いよく歩くと躓いて転んでしまいそうだ。

40mもの塩が堆積しているヒスイ色したアッサル湖。山の反対側は紅海。

 

渚の近くに水溜りのような池があった。池の岸辺は渚とは対照的に柔らかく、フレーク状の塩が堆積している。ラクダを連れたアファール族がこの塩を採りにきた。池の底をさらうと砂を掘るように塩がザックザックとれた。塩は村々を回って売るための商品。彼にとってアッサル湖の塩はプラスチックの器で集めるだけで手に入る宝物。しかも生活の糧になる貴重品。まさに地球からのありがたい贈り物なのだ。

湖の近くにある池で塩を集めるアファール族。ラクダに積んで売り歩く。

 

片平 孝(写真家)

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