浜の味噌焼き
愛媛県の塩浜では色々な行事があった。作業が始まる塩竃(しおがま)の焚き始めには神棚に塩や洗米などを備える。これをカマダテ祭りと呼んだ。良い塩がたくさんできることや、竈場の安全を祈った。旧暦の7月17日(8月中旬から9月上旬ごろ)は、小麦稈(こむぎわら)を燃やして堤防が切れないように祈る行事である。「塩竃さん」という。この日は、堤防の樋門に浜子たちが集まる。「塩竃さん」の行事が終わると、夜には大工(親方)が浜子を招き、酒や素麺などでもてなした。
浜子の楽しみの一つに味噌焼きがあった。冬の間に直径1尺(30㎝)、深さ3寸(9㎝)、厚さ2寸(6㎝)ほどの容器を作る。赤土に塩の苦汁を混ぜ、カマスを入れて足で踏んで練る。その上で陰干しにする。この容器の中に魚やエビやネギを入れ、味噌で塞ぐ。それを竃の補助口の縁に置くと真っ赤に焼けた。焼けたところで取り出して食べる。これがなんとも美味であった。「忘れられない味」とのことである。また、浜主(浜旦那)や大工(親方)の来客のための「浜料理」があった。鯛の浜焼きである。これは、焚き上げの二釜に、高熱を維持した塩の中に鯛を並べて入れる。そして、塩の中に鯛を埋める形で蒸し焼きにした。鯛は高級品で、来客用であり浜子の食事には出なかった。また、二釜分の塩を汚すことになるので、よほどのお客さんでないとしなかったという。もちろん、塩が汚れたといっても、これらの塩は鹹水壺(かんすいつぼ、濃い塩水を溜めておくツボ)に戻して無駄にはしなかった。
落合 功(青山学院大学経済学部教授)
参考文献:「西瀬戸島嶼巡航記」野本寛一(『民俗文化 第10号』近畿大学民俗学研究所)