味覚点描

私達が感じる味は甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の五つの基本味で構成され、舌上の味細胞で受容される。広義の味には辛味、渋味など“味”の付く言葉もあるが、これらは、味と言うよりは刺激であって、舌上の味細胞では受容されない。五基本味は、図1に示されるように、嗜好、忌避が分かれている。例えば苦味は、じゃがいもの芽に含まれるアルカロイドのように体とって毒性を示すものを知らせるシグナルであり、忌避される。五基本味の中で、塩味は体内のイオン(浸透圧)を調整するために必要なNaClを感じる味質である。それゆえ、適度な塩味は好ましいと感じ、一定濃度を超えると逆に嫌いな味となる。他の味質と大きく違うのは、塩味を呈する物質は、ほぼNaClしかないことである。甘味の代表はショ糖であるが、ショ糖以外にもブドウ糖、果糖、アスパルテーム、サッカリンなど甘味物質は沢山存在する。酸味は、酢酸、塩酸、クエン酸、アスコルビン酸と単一ではない。しかし、塩味はNaClの類似構成要素を持つKCl、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどの塩類は、KClを除いて、塩味とは全く異質の不快味を呈する。KClも水溶液にすると、苦味、えぐみが感じられる。ここ20年の間に、味物質を受容する味覚受容体が次々に発見された(図2)。

図1 食べ物の認知と5基本味

図2 味覚受容体

旨味の受容体はT1R1+T1R3、甘味の受容体はT1R2+T1R3である。甘味受容体は1種類しか存在せず、たった一つの受容体が、多様な甘味物質を受容している。旨味、甘味、苦味はGタンパク質共液型受容体(GPCR)であり、酸味と塩味は、イオンチャネルに属する。塩味の受容体候補として、上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)が報告されたのは2013年のことである。ENaCは、主に腎臓に存在し、ナトリウムの再吸収を行う分子である。ENaCが舌にも存在し、これを失ったマウスでは、塩味に対する応答性が減少することが示された。しかし、同時にENaC 以外の分子が塩味に応答する可能性も示されており、今後、新規塩味受容体の発見が期待されている。

朝倉富子(東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授)

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